席に戻ると、課長のビールが空になってて。



「大和、おかわりは?」

翔さんが課長に聞く。



「そうだな。たまには冷酒でももらおうか」


メニューを見て課長が注文する。




「美空は?何飲む?」


課長が私にメニューを見せてくれる。




「私はもう...」


結構です。と、言いかけた私の言葉を、久香が遮る。




「せっかく来たんだから、もっと飲みなさいって。明日は土曜日で仕事休みでしょ。それに、どうせ海堂さんの奢りでしょ?」



「ちょっ...何言って...。ちゃんと割り勘で..」


今度は課長が私の言葉を遮る。



「もちろん、俺の奢り」



「課長。半分払いますから」



「誘ったのは俺だから、今日は俺が出すよ」



やりとりを見ていた翔さんが、



「遥菜ちゃん、奢ってもらえ。こいつ、高給取りだから」


口元は課長に見えないように隠してはいるが、丸聞こえの声で言う。




「――――じゃ、お言葉に甘えて...」


あまり頑なに断るのも悪い気がして、結局カクテルを注文した。



甘くてオレンジジュースみたいなカクテル。


氷が音を立てるのを見ながら、私は、久香との会話を思い出していた。





『遙菜も好きな人と一緒にいたいんじゃない?』




好きな人......か。