ペテンの道化師



「じゃあ笑ってよ。」


キルトは首を振る。


「どうして?」
「ショーは楽しかったわ。でもピエロさんは、悲しかった。」
「悲しかった?ボクが?」



ボクは道化。


悲しいはずがない。



「悲しかったら泣けばいいのよ。」
「キルト、言ってる意味が分からないよ。ボクは悲しくなんかない。だから涙の流し方さえ忘れたんだ。」
「悲しいわね…」



どうしてこんな哀れんだ目でボクを見る?



「ボクは、ボクは道化師だ!悲しくなんて…」
「アナタはペテン師ね。ペテンの道化師さん。笑顔で騙しても、きっとずっと泣いていたはずよ。」



泣いていた?
ボクが…?



「ボクは泣けないのに?」


ボクは笑ってみせた。
だってボクはこの顔しか持っていないんだ。




その日から、いつの間にかボクは


――ペテンの道化師、と人々から呼ばれるようになった。





「ボクは悲しくなんかない。悲しくなんか、ないんだ。」






――END――