淡夢【短編集】

僕の思考回路は完全に停止した。


その後も、その医師は長々と僕に何かを話していたが、僕の耳には入って来なかった。

長い話のあと、やっと医師はサナとの面会を許してくれた。

サナの病室のドアをゆっくり開ける。



「あ、ファイ!」

そこには、暖かい日差しの差し込む純白のベットの上にサナがいた。

別に顔色も悪くない……

とても重病には見えない。

「ファイ……?」

サナが不安な顔をしている……

いや、不安な顔をしているのは僕の方か……

こういう時、どんな話題を出せばいいのだろう?

話題などいくらでもあるはずだ。

いくらでも……


「ファイ、これ見てよ!」

サナは僕に、机の上にあった手鏡を渡した。

「一体……」

「自分の顔を映してみてよ」

「?」

僕は言われるままに手鏡に自分の顔を映した。

そこには端麗な容姿の僕が映った。

「……やっぱり、僕は美しいな……」

そう呟くと……

「クスクス」

サナは突然、笑い出した。

「あははっ、絶対そう言うと思った」

涙が零れるほど笑っている。

僕の不安はどこかに飛ばされた。