「ひっ、ひいいいい!!」

幸田の叫びと供に、私のではない地を駆ける音が聞こえてくる。明らかに私は追いかけられているのだ。

「待てっつってんだろ!止まれゴルァ!!」

今ここで止まったら殺される!この世から消されてしまう!!

自分の命が懸かっている私は、これ以上は無いくらいの速さで地を駆けている。自分の人生の中で一番必死に走っている。前の学校で毎朝全力疾走して登校していた私はそこら辺の男子や運動部よりもいい脚力を持っていた。そんな私の命の懸かったダッシュはあり得ないくらいの早さだった。それはもう自分でも驚くほどに。

「おい待て!てめぇ何者だ!!」

幸田の気持ちもわからなくはない。
帰宅部の目の前の女子に追いつけず、かつその女子が異常なまでの速さで道を走っていたら誰でもそう叫びたくなるだろう。
幸田は自分の限界までスピードを上げた。その速さは陸上の日本代表になり、オリンピックに出られるくらいに。

しかし、人間は命が懸かると実力以上の力が出せるもの。今私は身をもって体験しております。
そして家が近くなった私は、どうやって幸田を振り切ろうか考えていた。異常な速さで走りながら考えていると、目の前には空手部員らしき者たちの姿が。そしてその後ろには信号付きの曲がり角。そして人が多い。

もう、振り切るならここしかない!

しかし、このまま行けば空手部員達とぶつかってしまうことは確か。
けど自分の命が懸かっている私は、目をかっ!と開き、自分の中にある力を振り絞り、今度こそ今まで以上の速さで空手部員達の前を通り過ぎた。
そしてその直後、空手部員達の掛け声が耳に入ってきた。それと同時に幸田と思われる叫び声も聞こえた。

『いっちにーさーんし!!!』『ごーろっくしっちはっち!!!!!』う!どけよ邪『いっちにーさーんし!!!』おいテメ『ごーろっくしっちはっち!!!!!』けっての!おいお『いっちにーさーんし!!!』お『ごーろっくしっちはっち!!!!!』おい女ぁ!これ『いっちにーさーんし!!!』こ『ごーろっくしっちはっち!!!!!』これ通り過ぎんの待ってろよ!!」

後ろで何か言ってるが、聞こえない事にしよう。
そう決めた私は、安堵のため息をついて帰路についた。