ちなみに、さっきイノシシのように突進してきた真理子ちゃんはこの《藤山》の組長、藤山 颯(ふじやま はやて)の奥さんだったりする。
本当、美男美女のお似合いの夫婦だ。
「ところで稚春。」
「なぁに、ダーリン。」
「………。」
「あ。」
ヤバい。
そう思った時にはもう、遅かった。
「稚春っ!!ダーリンは感激したっ!」
「ぎゃー!触んな変態ー!!」
《藤山》の組長が暴走した。
「稚春ー!!」と触んなと要求した私の言葉をガッツリ無視して正面から抱きついてくる《藤山》の組長。
大事なことなのでもう一度言う。
今、私にガッツリ抱きついているのは紛れもないここ一帯を取り締まっている《藤山》の"組長"だ。
「ダーリンって呼ばれるのを待っていたー!」
「離せー!直ちに私を離せー!!」
抱きついてきている奴の耳元で叫んでやるけど全然効果なし。
効果どころか、さっきよりも力を込めてきやがった。てめえ。
頭にくるその行動をなんとかしようとしながらもこんなことになった原因を思い出す。
あぁ、そうか。
私がダーリンって呼んだからか。
この《藤山》の中で颯さんは"組長"と呼ばれている。真理子ちゃんは"颯くん"と呼んでいるけど、真理子ちゃん意外は皆、"組長"と呼ぶのだ。
まぁ、颯さんは事実、《藤山》の組長なのだからそう呼ばれて当然なんだけど。
けれど私は組長とは呼ばずに"ダーリン"と呼んでいる。
なぜならば。
「俺のことは組長ではなく"ダーリン"と呼んでくれ。」と言われたからだ。

