――――――
―――
「いや、マジで心配したんだぞ?」
「はい、すいません…。」
相変わらず綺麗にセットされた漆黒のオールバック。
射抜くような鋭い目。
低い部屋中に響く声。
威厳のあるオーラ。
《藤山》の中央にある和室の一角、私は藍色の着物を着た妙に色気のある男の人と対面していた。
かたん。
庭にある鹿威しが水を吐き出して元に戻る音が響く。
それにしても綺麗な庭だ。
前と変わらず庭師さんが庭を整理してくれてるのかな。
「まぁ無事で良かった良かった。ってか、てっきりここが嫌で逃げ出したのかと思っててよぉ。」
「そんな訳ないです!」
「おう。ここに戻ってきてくれたってことはそーゆうことだろうから、もう思っちゃあいねぇよ。」
「はい、すいませんでした…。」
きゅう。拳を握る。
それに気付いたのか、「まぁ、」と、呟いてから男の人は落ちかかってきた艶やかなサイドの髪の毛を耳に掛けた。
その仕草が色っぽい。
「そんな謝んじゃねぇよ。まぁ俺は稚春がどこに居るかなんてお前がここから逃げた一時間後には知ってたけどな。」
「へー。え、えっ、えっ!?」

