赤い狼 伍




―――――、




「やぁ…、おはよう。」



うっすらと目を開ける。
その瞬間に降りかかってきた声に、あぁ、私は寝ていたのか。とボーとする思考の中で理解した。



「………稚春、聞こえてる?」



しばらく俯いて掛け布団を眺めていると、先程と同じ懐かしい声が横からかかる。



「わぁ…、なつ、めだ。」


「何その途切れ途切れ。」


「ただ今驚き中。」



クスクス、目を丸くしている私の言葉を聞いて静かに笑う棗は私があの日、逃げ出してから会ってない間も変わらず、だったらしい。

目を細めて笑う棗が懐かしい。



「………本物?」


「…………、夢かもね。」


「…………棗さん、そんな冗談面白くない。」


「笑えよ。」



なんとまぁ、棗は会ってない間、乱暴な口調が癖付いてしまったらしい。誰だ、棗の教育を怠った奴は。いや、そもそも棗の教育をできる人があの溜まり場には居なかった。しまった、これは私のミスだ。



「な、ななな棗!しっかり!お母さんだよ!あんたのこと教育するお母さんだよ!私の胸に飛び込んでおいで!!!」


「あ、お母さん。会いたかった。」


「いでででででっ!なんちゅー力で私の体を引っ張るのさ!」


「わーい、お母さん、子供に対するお母さんの愛は無限大だから何をしても怒らないねー。」


「え、ちょ、待て。何、この私の前髪を掴んでる手。え、なになに!ちょ!なにギュッと掴んでんの!!何キレイに微笑んでんの!!!」


「お母さんお母さんー。」


「ぎゃああぁあああぁあ!!!ゴメンて!私が悪かった!お母さんじゃなくて稚春ちゃんだよー!ねぇ、気付いてっ!」


「あはははー。」


「無表情!怖い!!」



オーマイガー、紳士な棗はしばらく見ない間に消え果てたらしい。素晴らしくサディストだ。あぁ恐ろしい。お前なんてそこのソファーで、わぁい、トランポリンだー!わぁいわぁいっ!って遊んでそのまま飛びすぎてその大きい身長で《SINE》の2階の部屋の天井壊してしまえ。それで隼人に怒られて、しごかれてしまえ。