振り返った和眞くんはやっぱり平坦な面立ちで、無言の入栄にしかしすこしも臆することなく、耳障りの好い声でこう言った。


「さいきん、柊ちゃんと仲いいみたいだよね」

「落とす気だから」


 ぱちくりと和眞くんは目を見開き、それからふっと噴き出した。


「わ。すごいかっこいい科白」

「マジだし」


 話す相手がこいつだと思うと、自然と声に刺が混じる。

 それになんとなく……こいつと向かい合った瞬間、どうして吉崎がこいつに惹かれたのか、その意味が、

 漠然とだが、直感的にわかるような気がしたのも癪だった。

 全身から放たれる、相手に警戒心を抱かせないやわらかな雰囲気、マイルドな物腰、
 しゃぼん玉のように色彩豊かで、風をまとい、ふわふわと舞い上がる心地よい声。


(……んだよ、くそ)


 ……最終的に、選んだのが吉崎ではなかったとはいえ、そこに不純な理由や都合はなかったはずだ。

 和眞くんが今の彼女を選んだのは、心からその彼女のことを好きになったからに他なるまい。

 そう思わずにはいられない誠実さと清純さが、和眞くんからは滲み出ている。


 自分と通じ合うものを、彼に感じたのかもしれない―――……。


 勝ち目がないかも……、と柄にもなく気弱になりかけて、入栄は慌てて自らを叱咤した。



「柊ちゃんはさ、つくづくいい子だよね」