<入栄side>


 ―――季節は巡る。


 初春。

 3学期、終了式。

 彼女は今日も今日とて、ミナという親友と朗らかに笑みを交わし合っている。

 憎むべき相手であろうはずの彼女をいまだに友と呼び、親しみ、必要とあらば力になろうとする、

 その慈悲深さとも言うべき器の広さを、彼女自身はただ意気地がないだけだと断じ、己を貶(けな)すことに迷いがない。



 俺は、ちがう。



 彼のためなら己の気持ちを押し殺すことさえ惜しまないと、思うほどに彼女に愛され、幸福へ導こうとしてもらえるあの男が、俺は―――憎い。

 彼女の気持ちなどつゆほどにも気づかぬまま、どれほど彼女が裏で心を砕いてくれているかを忖度せぬまま、あの男はのうのうと、俺がどれほど……喉から手が出るほど欲しているか知れないものをいとも容易く手にしている。


 当然のごとく、深く考えもせず、男は与えられる親切を与えられるまま片手で受け取って、

 その陰で彼女が泣いていることも、彼女の心をずたずたに引き裂いていることにも気づかずに、己が愛する人の元へと飛んでいく。




 ……そんなクソみたいな話があるかとおもう。