脚に、力が入らない……。

 柱に身体を預けたまま、伝うようにずるずると柊はしゃがみ込んだ。

 膝の間に顔を埋める。

 湿った吐息が白く煙って視界を覆う。

 寒さとは関係なく目が潤んで、柊はいっそう強く顔を膝に押さえつけた。




 どれほどそうしていただろう。

 さほど時間は経っていないように思う。


 半ば放心状態のようになりながら蹲(うずくま)り、何を考えるでもなく無為に時間を潰していた柊は、次の瞬間、いきなり覚醒した。


 ―――人の気配。


 またたく間に緊張が走り、全身が硬直する。

 顔を上げずともわかるその距離の近さ。

 剥き出しの寒さがぐっとやわらいだのが何よりの証だ。

 かすかな衣擦れの音。


 ああ、やだ……。

 今のわたし、きっと、ひどい顔をしてる。

 仮眠場所には不適切きわまりない場所だが、どうかそっとしておいてほしい。

 生きているから、それを知って安心したらどうかわたしに構わず帰って、という願いを込めて手を動かしてはみたものの、虚しく叶わず、その人は微塵もその場を動こうとはしなかった。

 焦れる気持ちと醜い自分の顔を見られたくないという恐怖、
 柊の身体からは並々ならぬ拒絶の意思が放射される。

 柊はぐっと膝を引き寄せた。

 されども、彼女の願いは届かない―――。

 小刻みにふるえる肩。


 舞い降りる羽がごとく、誰かの指先が柊に触れた―――……


「……柊ちゃん? 柊ちゃんでしょ? どうしたのこんなとこで! 風邪引くよ!」