逃げ場はない。

 足元には着々と水が溜まりはじめている。

 腰が退けるが、駆け出したところで逃げ切れる相手じゃない。

 が、逃げないで真っ向から挑むよりマシじゃないか?

 あんなどでかいタイヤで目の前を走り抜けられてみろ…………想像しただけでぞっとしないぞ。

 柊は考える。
 考え、考え、考える。


(やっぱり駄目―――ッ!!)


 めまぐるしく思考したけれど、よき手立ては見つからない。

 やむを得ず柊は覚悟を決め、それでも最後の抵抗で顔だけはしっかりガードして、
 果たしてトラックと自然の餌食となった―――


 ―――……なるはず、だった。


(……あ、れ)


「―――ふぅー……ぎりぎりセー、フ?」


 首を縮め、ぎゅっとまぶたを閉じていた柊の頭上から、妙にのんびりとした声が落ちてきた。