その日の夜、宿題の途中でうたた寝していた柊を、携帯の着信音が無情に呼び起こした。

 ミナからのメールだった。


『頼んだからね、よろしく』


 一瞬なんのことかわからなくて、何気なく目に留まったカレンダーで思い出す。

 2月13日。夜が明ければ14日。


 言わずと知れた、バレンタインデーである。


 今日、クラス中がどことなくそわそわと落ち着きなかったのももちろん、このせいだ。

 フリーなら男女を問わずに浮き足立つ。

 恋人がいても、フリーの友だちがこの日にアクションを起こそうと決意していたら、いやでもその緊張は周囲に伝播して、やっぱりそわそわしてしまう。


「チョコレート、何個もらえるか競争するか?」


 と、そもそものステージが周りと段違いの、競い合いに燃える男子たちもいて、3年生を除き、学校はひそかなお祭り状態だ。

 柊の部屋にも丁寧に包まれたチョコレートが1つ、置いてある。

 上等な包装の上からさらにシックな紙袋に守られたチョコレートは、手作りではない。

 料理に自信がないなら、別に、チョコは買ったものでいいのだ。

 要は、気持ちなのだから。


『わかってる。
 任せておいて。』


 できるだけ暖房から遠いところに置かれたチョコレートを振り返り、柊の口からは自然、吐息がこぼれた。