「冗談じゃないよ」


 そう言って、柊の手を掴んだ入栄の表情は、まだほのかに険しかった。

 叱責(しっせき)するような目つきにすくみながらも、

 早まる鼓動は恐怖以外の感情から来ているものだと、柊はいよいよ認めざるを得なかった。


「冗談なんかじゃない。だいたい、吉崎さんみたいな子が外で店番をするときは、とにかく寒くない恰好で、ありきたりなエプロンをしてお店に立つべきだと思うんだよ。

 そんな服装でいらっしゃいませって言われて、素通りする男がいると思うの?」

「け、けっこうな数、いたけど……」

「それは決まった相手がいる人でしょ。―――まあ、吉崎さんが無事ならよかったけど。もう終わりなんでしょ?」

「うん」

「もし次にこんなことする機会があったら、いたずらに優しい顔はふりまかないほうがいいよ。てか、そうして」


 いたずらに優しさ振りまいてるのはどっちよ……と恨めしく思いながらも、柊は素直に頷いた。

 すると入栄は子供のように無邪気に、よし、と頷き返し、柊はまたぞろくらりとした。


 いいように振り回されっぱなしの彼女の前に、

 バラの花が一輪、差し出された。