ふいにあたりが暗くなった。

 一気に押し寄せてきた雲の影に、たちまち自身の影が呑み込まれる。

 濃厚な土の匂いがつんと鼻孔を突いた。

 ああこのにおいは、と眉をひそめて天を仰いだとき、頬にぽたりと雫が落ちた。

 ―――やっぱり。

 足元へぽたり。もうひとつ、ぽたり。

 みるみるうちに、道路が雨粒の染みで埋め尽くされる。

 天気予報は確かに午後の降水確率を60%と表示していたけれど、まさか降ってくるとは思わなかった。
 ちょうどよく傘なんて持ってない。

 吉崎柊(よしざきのえる)はあたふたと鞄に手を突っ込み、ハンカチもしくはタオルを探した。

 夏休み、汗の処理というエチケットと、天気の変わりやすいこの季節、こういう急な降りに備えて、出かけるときには必ずタオルを所持している。

 ようやくフェイスタオルを引っこ抜き、広げたところで、


(あれ)


 どうしてか嘘のように、ふっと雨が止んだ。

 なんだもう終わり? となんだか拍子抜けな気分でタオルをたたもうとした次の瞬間、


「わっ」


 今度は桶をひっくり返したような土砂降りになった。