俺と初めての恋愛をしよう

妹がそう言った顔立ちをしているのだから、ここまで姉妹で違うはずもなく、コンプレックスが、このような状態を作り出しているのだろう。
周りからみれば確かに暗い女だ。だが、卵型の顔つきに少しだけ垂れたくっきり二重の目。小さな唇は確かに厚みがあるが、これはかなり色っぽい。半開きの口でほわっと見られたら、たまらないだろう。小さな顔に小ぶりな鼻、その顔の全体の雰囲気はまるでお雛様のようだ。
 しかし、今日子は憎くて仕方なく、この体を作り変えるために今まで生きてきた。今日子の生きる気力だ。
 そして、少しでもこの表に出ている顔を隠すために、視力はとてもいいが、伊達メガネをかけ、前髪をメガネすれすれまで切り揃えている。おかっぱ頭のロングバージョンだ。自分でさえ、メイクをするとき以外、鏡を見るのを拒否している。他人ならなおさら、実際の今日子の顔をちゃんと見た者はおそらくいないだろう。
 服はもっぱら通販。美容院に行くのも勇気がいる。目線が怖いのだ。あんなブスがなにしたって綺麗になんかなれないと、言っているようで。被害妄想なのはわかっているが、そう考えることが癖になっていて直すことが出来ない。
 こんな今日子でも細心に気を使っている箇所がある。それは髪と肌だ。他のパーツは手術でどうにでもなるが、肌質、髪質は自分でどうにかしないとならない。長い髪はいつもつげのくしでブラッシングをし、艶を保つため椿オイルをすり込む。肌はボディタオルで洗わず、手で優しく洗う。不細工なりに清潔感を大切にしている。
 全ては、作り変えるための準備なのだ。
昼休憩になり、ぞろぞろと食堂に向かう人や、ランチをしに行く人でエレベーターは混雑している。今日子は少し時間を置き、非常階段から上へあがる。部署は13階、15階に会議の時にのみ使用する会議室と、ラウンジがある。会議以外で社員をみたことがないため、ずっと此処で昼休憩をとっている。今日子の隠れ家だ。

 「いただきます」

 一人ほっとする時間だ。高い場所から外の景色を眺め、周りの目を気にすることなく食べる。なんと心地よいだろう。
昼食をとる前に、この窓からの景色を眺め、凝り固まった背中と肩をほぐすのが日課だ。
 お弁当を早く食べ終えて、ふかふかのソファに座り伸びをする。コーヒーを飲みながら残りの時間で雑誌をめくる。

「一人で楽しいか?」

 今日子は、びっくりしてソファから飛び上がるように立ち上がった。
 声のする方を見ると、エレベーターの方から後藤が歩いてきた。