「俺がいなかった3年間はどうしていたんだ?」
一体、何が聞きたいのか皆目見当がつかない。
全くわからない今日子は、返事のしようがない。
今日子は人と交わることは避けて生きてきた。朝起きて、仕事に行き、帰宅して、寝る。週末は1週間分の買い物をして、ずっと家から出ない。その繰り返しだ。入社以来変わらない。
「どうって……」
「俺がいなくて寂しかったとかなかったのか?」
「え、そ、それは。仕事をしながら注意されたことを思い出して、気を付けるようにしたりはしていましたが……」
後藤がいる間、いない間も関心は持たないようにしていた。
それは、後藤に限らずだ。人間そのものに関心がないのだ。
「それくらいか。俺は、向こうでお前に後ろ姿が似ている日本人を見つけると逢いたくてしようがなかった」
後藤は、掴んでいた手を握り直し、力を込めた。
異性に手を握られるなど、経験がない。握られた手に汗がにじむ。
「部、部長……!」
今日子は、囁き声のようなか細い声で後藤の名前を呼び、動揺しつつも行動はしていた。繋がれた手を必死で剥がそうとしている。
「離さないって言っただろ?」
美麗な顔と真っ直ぐに見つめる熱い視線が傷を掘り起し、震えが来た。走馬灯のように一瞬で過去の嫌な記憶が呼び戻された。過去に一度告白された時になったのと同じ感覚だ。動悸も激しくなってくる。
これ以上、ここにいると過呼吸になるかもしれない。今日子は過去に何度も経験している。
「あの、ちょっと、トイレへ、トイレに行ってきます」
行きたくもないトイレを口実にこの場から逃げようとした。だが、そんなことは後藤にはお見通しだった。
手を離さない後藤に困り果てていると、救いの声が今日子の耳に届く。後藤を呼ぶ他の社員たちだ。後藤は小さく舌打ちをして、声のかかった席に向かった。
今日子は、近藤がやっと手を離したことで、自分を落ち着かせようと、呼吸を整えた。
後藤を見れば、部下に飲まされているようで、このまま抜け出してもつかまえられないだろうと、素早く席を立ち、居酒屋を後にした。
足早に駅へと急ぐ。何故、後藤はあんなことを言ったのだろう。あと少し、もうちょっとでお金が貯まる。新しい人生の幕開けが待っている。この会社もそれまでだ。だからお願い、この願いが叶うまで、静かに過させてください。それが細やかな今日子の願いだ。
一体、何が聞きたいのか皆目見当がつかない。
全くわからない今日子は、返事のしようがない。
今日子は人と交わることは避けて生きてきた。朝起きて、仕事に行き、帰宅して、寝る。週末は1週間分の買い物をして、ずっと家から出ない。その繰り返しだ。入社以来変わらない。
「どうって……」
「俺がいなくて寂しかったとかなかったのか?」
「え、そ、それは。仕事をしながら注意されたことを思い出して、気を付けるようにしたりはしていましたが……」
後藤がいる間、いない間も関心は持たないようにしていた。
それは、後藤に限らずだ。人間そのものに関心がないのだ。
「それくらいか。俺は、向こうでお前に後ろ姿が似ている日本人を見つけると逢いたくてしようがなかった」
後藤は、掴んでいた手を握り直し、力を込めた。
異性に手を握られるなど、経験がない。握られた手に汗がにじむ。
「部、部長……!」
今日子は、囁き声のようなか細い声で後藤の名前を呼び、動揺しつつも行動はしていた。繋がれた手を必死で剥がそうとしている。
「離さないって言っただろ?」
美麗な顔と真っ直ぐに見つめる熱い視線が傷を掘り起し、震えが来た。走馬灯のように一瞬で過去の嫌な記憶が呼び戻された。過去に一度告白された時になったのと同じ感覚だ。動悸も激しくなってくる。
これ以上、ここにいると過呼吸になるかもしれない。今日子は過去に何度も経験している。
「あの、ちょっと、トイレへ、トイレに行ってきます」
行きたくもないトイレを口実にこの場から逃げようとした。だが、そんなことは後藤にはお見通しだった。
手を離さない後藤に困り果てていると、救いの声が今日子の耳に届く。後藤を呼ぶ他の社員たちだ。後藤は小さく舌打ちをして、声のかかった席に向かった。
今日子は、近藤がやっと手を離したことで、自分を落ち着かせようと、呼吸を整えた。
後藤を見れば、部下に飲まされているようで、このまま抜け出してもつかまえられないだろうと、素早く席を立ち、居酒屋を後にした。
足早に駅へと急ぐ。何故、後藤はあんなことを言ったのだろう。あと少し、もうちょっとでお金が貯まる。新しい人生の幕開けが待っている。この会社もそれまでだ。だからお願い、この願いが叶うまで、静かに過させてください。それが細やかな今日子の願いだ。



