入り口で、後藤がカゴを持ち、そして空いている方の手は今日子の手と繋いでいた。
 照れながらもスーパー内を歩いていると、視線が今日子と後藤に向けられていることに気が付いた。人目を惹く容姿、背も高く見栄えがする。スーツ姿の後藤だが、一目見て、一流企業に勤めているエリートと分かるオーラを出している。注目を集めるのは当たり前だ。
 今日子は人の視線に敏感に反応する。
 そこではっと自分の置かれている立場に気づき、繋いだ手を振りほどいた。

「どうした?」

 後藤の声を振り切り、今日子は足早にスーパーを出て、駐車場に向かった。

「林!待て、どうした?」
「……視線が、部長を見ている視線が……身の程知らずでした私……やっぱり帰ります」

浮かれていた自分が恥ずかしくなった。急に我に返ったようだった。
 駐車場の灯りだけがともる薄暗い場所で今日子は自分の身体を抱きしめた。
 やっぱり、後藤の傍には行けない。付き合うことになれば、熱い視線がつねに付きまとい、ずっと気にしながら過ごさなければいけない。

「帰ります」

後藤が聞きたくない言葉だ。温かく満ち足りた心が、一気に冷えて行くのが分かった。

「林……」

 優しい声が掛かり、温もりが今日子を抱きしめた。

「林? おいしい弁当屋があるんだ。から揚げ弁当がおススメだ。それでも買って帰るか? 味噌汁つきだぞ?」

今日子が何を気にしたのか、後藤は分かったのだろう。その優しさに応えられない自分が情けなく、涙がこぼれた。声を殺していたが、鼻をすする音で泣いていることが分かったのだろう。車の鍵を開け、後部座席に今日子を乗せ、後藤も乗り込んだ。
 後藤はただただ、黙って今日子を抱きしめ、背中を摩った。
この女は、なんてもの悲しくなくのだろうか。後藤は胸が締め付けられた。
後藤には、包み込んでやることしかできないのか。ふがいない自分が嫌だ。だが、いま出来ることはこれしかない。
 後藤にそうされているうちに今日子の、涙も次第に止まり、今日子は落ち着いていった。