俺と初めての恋愛をしよう

それからも確認を怠らないように、慎重に仕事を進めて言ったが、一日中時間を気にしていた。4時になりあと一時間で終業の時刻になる。
あんなことがあって、誘いを嫌がるのもどうかと思ったが、プライベートと仕事は別だ。挨拶もせずに人に紛れれば帰れるかもしれない。少し期待したが、それは見事に打ち消された。

「林、今日中にこれを頼む」
「……はい」

 呼ばれた今日子は、席を立ち後藤のデスクに行くと、書類を受け取る。
 (そうか、残業させれば逃げられないか……。逃げさせないってこのことか)
そうであれば、少しゆっくりと仕事をして時間を稼げばいい。少し希望がみえてホッとした。
 週末ということもあり早々と社員が帰っていくなか、とうとう部署は今日子と後藤だけになった。まだ終わらせていない書類がたっぷりとある。時間は7時、もっと時間を掛けようと思っていたが、その望みは打ち消された。
 背中からほわっと覆いかぶさる感じにびっくりしていると、マウスを使う手に違う手が重なった。

「……!」
「もう業務終了だ。行こう」

 後藤が声をかけた。
 後藤は戸惑っている今日子を余所に、パソコンのデータを素早く保存し、電源を落とした。

「でも、まだ終わっていません」

 電源が落ちた画面を見ながら答える。

「これは、今月中に処理すればいい書類だ。林なら見て分かったはずだ。引き止めておく口実を作っただけだ。逃げさせないって言っただろ?」
「……」
「さあ、行こう。車は駐車場に止めてあるから」
「……はい」