俺と初めての恋愛をしよう

家に着くなりベッドに倒れこむように横になる。天井の灯りをみながら、明日のことを考える。
特に会話があるわけでもなく、淡々と仕事をしていく。後藤と二人で。今日子は上司である後藤に仕事を与えられれば、受けなければならない。
その仕事は、今やらなくてもよいのではと、感じる物もあったが、そんな意見は言えない。
後藤はどこまでも優しかった。

「どうしよう、明日。逃げられないようにするって言っていたわ……。有休もあるし休んでしまおうか、それとも知らないうちに早退するとか。いっそ、熱でも出てくれないかしら。それも大人げないか」

 ごろごろしながら、また言い訳を考える。明日から、早く出勤するのは止めよう、また後藤と会ってしまう。もし誰かに見られて嫌な噂でもたったら会社にいられなくなる。

「どうして私に構うのかしら……」

 願いが叶うまでのあと少しの期間。それを無事に会社で過ごせたらそれでいい。そのあとは、きっと輝かしい未来と、楽しい人生が待っているに違いない。今日子はそう信じて疑わない。へたしたら、その意思だけは、誰よりも強いかもしれない。

 「私と同じ、殺風景な部屋ね」

ベッドで横たわりながら、部屋を見渡すと、女性らしいものなど何もない。ただ、きちんと整理整頓がされているだけだ。自分同様、必要以外の物は置かない、買わない。それが、今日子のこだわりだ。
 
 「どうしよう、明日」

今日子は憂鬱な夜を過ごした。
考えごとをしながらの睡眠は浅い。後藤が赴任してきてからというもの、そんな状態が続く。後藤の前で起きてしまった発作は、本当に久しぶりで、いつも常備していたビニール袋は、ずっと出番がなかった。
家では呼吸を整えたりして落ち着かせようと頑張った。一人でいる時の発作は避けたい。その頑張りがまた良くなかったのか、睡眠に悪影響を与えていた。

「痩せちゃったな」

いつもの洋服が緩い。食欲もわかない状態ではそうなるのも仕方がない。
電車で揺られると、眠気が襲い、業務で単純な入力作業にはいると、睡魔が襲っていた。食欲が出ない状態で、眠気を冷まそうと、コーヒーと栄養ドリンクを飲む。管理をしていても、「なんてだらしがないの?」と自分を責め、恐怖だった軽い発作が、家でも起きるようになっていた。