俺と初めての恋愛をしよう

後藤が戻って来てからというもの、今日子には自分自身のことでありながら、理解できない感情が渦巻いている。会社にいるときも、自宅にいるときも。
今日子の日常は、それは穏やかなものだ。波風のない、穏やかな波の上で生活をしている。
しかし、後藤の出現によって、荒波の上に無理やり乗せられてしまっている。
今日子は、疲労困憊だ。新しく仕事を覚えることもなく、ずっと同じ業務をこなしているのだから、仕事の疲れとしては軽度なものだ。
背中に感じる後藤の視線に、身体が緊張して自宅に帰るころには、食事を作ることも出来ない状態だ。
足は怠く、背中と肩は凝っている。ドラッグストアで買ったシップを貼る日々だ。
後藤が部長として配属になり、今日子と密に接触をしてきてから、毎日のように残業だった。
残業にならないようなときは、別室で後藤と資料合わせなどの仕事を与えられ、気の休まる日がなかった。
(新人がする仕事なのに)
決して人のことは言わない今日子だったが、こういうことが続く毎日に、不満が出始めているのは、確かだった。二人になれるチャンスを、自ら作ることが出来る後藤は、会話がなくても満足で、新人以来の資料作りも、楽しくて仕方がなかった。
そんな中での明日の誘いだ。仕事に集中出来ずに、小さなミスを連発した。大事にならない、自己解決できるミスばかりだったが、その小さな原因が大きな問題に発展することも知っている。
(いじめられてしまう。目立ちたくない)
一人でいる時の発作程怖いものはない。帰宅して、ストレスから解放された時が怖い。今日子は、そんなときも発作が起きる時があった。
そんな些細なことも今日子には、凶器となるのだ。
明日のことをどう振り切ろうか考えながらの一日が終わり、どっと疲れが出た。昼もラウンジを使わず、外に行き済ます。後藤が戻ってきて以来ペースが乱される。精神的に変化についていくことが出来ずに家に帰るころには食事を作る元気が今日もなくなっていて、総菜を買って済ませてしまった。
今日子は自分で作ってしまった世界のなかで生きている。自分で自然と決めてしまっているルールの中に他人はいない。後藤の存在がそれをかき乱す。

「はあ~、疲れた……」