俺と初めての恋愛をしよう

「朝早いのもいいもんだな、気持ちがいい」

 背伸びをして見せる。

「そうですね」

 窓際に立つ後藤の後ろに控える。

「林は毎日、見ていたんだろ?」
「いえ、私は昨日たまたま早く出社しただけなので、朝のこの景色は知りません」

今日子はあくまでも知らぬ存ぜぬを通す。

「知っている、隠さなくていいんだ。会社でのお前のことは全部知っているんだ。誰よりも朝早く出社して、掃除をしてお茶の準備をしていることも。新入社員の時からな」

「え……?」
「知らないと思っていたか? ……もっと早くこうしておけばよかったな。何を躊躇していたんだか」
「……」
「林、明日の金曜日、仕事終わりにドライブに行かないか?」

 景色を見て話をしていた後藤が振り向き今日子を見つめる。

「え?」

どうして放って置いてはくれないのだろうか。今日子の胸の内は嫌で嫌で仕方がないのだ。それを分かってもらいたいが、どのように言ったらいいのか分からない。相手を傷つけてしまわないような言い方をしなくてはならず、今日子には苦手なことだ。
 それも今度はドライブの誘いだ。突然で断る理由が見つからない。何を考え、誘っているのだろう。頭を断る言い訳が駆け巡る。

「その様子じゃ予定はないな。明日、逃げるなよ? まあ、逃げられないようにするけどな。それと、これ。上司が誘っておいて貰うわけにいかないだろ? じゃ、先に戻っている」

 無理やり“SHIBANO”に連れて行かれた時に置いて行った5000円を今日子の手を取り掴ませた。

「あっ」

 ふっ、と微笑み、傍を通り過ぎる時今日子の頬をそっと撫でた。
 びっくりして身体が硬直してしまったが、不意に抱きしめられた時と同様、不思議と悪寒が走ることはなかった。そんな感覚は初めてで、今日子はそれが何なのか理解できない。自分のことは良く知っている。しかし、いきなり上司でいた男が、異性としての接触をしてきたとなると、それがなんなのか全く理解できない。
発作が怖い今日子は、自分を落ち着かせた。