「3年ぶりに戻ってきました、後藤 俊介です。お久しぶりです」

 挨拶をしたこの男は、海外支社に転勤となり3年ぶりに本社に戻ってきた。活躍もめざましく、本社勤務になって部長に昇進してのご帰還だ。若干38歳でスピード出世といえるだろう。
 今日子が新入社員だったころは仕事も丁寧に教えていたが、厳しい上司でもあった。その頃より大変モテはしたが、年齢を増して色気を増しいい男になっている。回りの女子社員の目も釘づけだ。まだ独身の後藤を狙う女子社員は多いだろう。
 切れ長の目に若干厚めの唇と目鼻立ちの整った顔、ほっそりとした顎のラインにスマートな物腰。どれをとってもパーフェクトだ。もちろん身長も高い。細身のスーツが良く似合っている。
 今日子は、挨拶を聞きながら、顔や体で苦労したことはないんだろうなと、つい考えては、自分のコンプレックスにたどり着いてしまう。異世界の人だと思うことにしよう、それに、仕事でかかわることもない。同じ部署だが、事務処理程度くらいしか接点もないだろう。 
 就任の挨拶もそこそこに仕事にとりかかった。

「暫くだったな、林。元気だったか?」

 不意に声を掛けられ見上げれば後藤が傍に立っていた。今日子はあわてて立ち上がり挨拶をする。

 「ご無沙汰しています。また宜しくお願いします」
 「もう、この部署にも数人だけしかもう知っている顔は残っていないな」

後藤は、部署の面々を眺めて言う。

 「そうですね、配置転換や転勤もございましたから」
 「なつかしむ意味で、また宜しく頼むよ」
 「こちらこそ宜しくお願い致します」

 今日子は、軽くお辞儀をして挨拶した。
今日子の内心は穏やかではない。昔の自分を知っている。今となんら変わりはないが、何か嫌な気持ちになっている。
今日子は、急な変化が苦手だ。今日はまさしくそうで、いつも以上に疲れていた。
こんな日は、残業をせずに帰りたい。だが、そうはさせてくれなかった。終業近くになり、後藤の歓迎会を催すことに急きょ決まったのだ。
事業部内には急いで回覧が回る。
場所決め、会費など、仕事の状況を踏まえ日程を決めるのが筋だが、エリートのご帰還とあれば、早々に手を打った方がいいと、部署の誰かが言い出したのだ。
回覧はそれを物語っているように、場所も会費もまだ未定。とだけ書いてあり、回覧確認欄が決裁版に添付され、出欠席を取っている。
今日子は、年に何度かある飲み会のうち、忘年会しか参加をしない。それも最後までいることなく、1時間いて座を後にする。歓迎会は参加するか迷ったが、明日は休みでもあるし、参加をすることにした。さすがに今日子も、歓迎会に参加をしないのは、少し憚られたようだ。