診察室では、植草が今日子の診療方法を考えていた。
精神的な問題は、デリケートで、しかも時間がかかる。植草は、どのようにしたら今日子と後藤にとっていいことなのかを考えていた。

「先生、いらっしゃいますか?」

目が覚めた今日子は、起き上がり声を掛けた。
その声を聞いて、カーテンが開き、植草が顔を出す。

「どお? 頭、すっきりした?」
「はい、昨日よく眠れなかったのですっきりしました。仕事さぼってすっきりなんておかしいですね」

植草が今日子の顔色と表情を見て、頷く。状態は安心してもいいようだ。

「いいのよ、たまには」

植草は、今日子の手首で脈を測る。

「今日はもう帰っていいわ。また話に来て頂戴。ここは患者さんが少ないから、一言もしゃべらない日があって寂しいのよ。来てくれたら嬉しいわ」
「……はい。お世話になりました。」

軽く身支度を整え、あとにしようとした時、植草は、今日子のキラキラと艶のある髪の毛が気になった。

「林さん、髪の毛とても綺麗ね。何かしているの?」

一番気を使っているところを褒められどうしていいか分からず顔が赤くなる。

「そ、そんなことないです。こんな髪……」
「あら、お世辞抜きできれいよ? 見て私の髪、お風呂から上がってもドライヤーで乾かすこともしなくて横着して指でとかしているの。痛んでぼさぼさよ」

肩までの長さがある髪をさわりながら、残念そうな顔して見せた。

「オイルを塗ってブラッシングをしているんです」
「そう。今度は綺麗な髪になる秘訣を聞きたいわ、じっくりと」
「……髪だけは作り変えることが出来ないから」
「え?作り変えるって?」

今日子のぼそりと言った言葉が、植草は引っかかった。

「いえ、ありがとうございました。今日はこれで帰ります。あっ、部長に挨拶していかないといけないでしょうか……」

こんなことがあったあとだ、会うことは避けたい。

「いいのよ。私から報告しておくから」
「そうですか、お願いします。お世話様でした」

植草の一言にほっとして、医務室を後にした。
植草は今日子を見送ると、「作り変えるってなんのことだろう。」と考えに耽っていた。