「おまたせ。もう時間も遅いからリゾットにした。それと生ハムのサラダだ」
柴野が丁度、料理を運んできた。器用に皿を腕と手を使って運ぶ。
「先ほどは挨拶もせず、すみません。初めまして、後藤の友人で柴野と申します。これからも是非寄ってください。お待ちしていますから」
物腰の優しい雰囲気そのままの笑顔を向けられる。
後藤の次に苦手なタイプだ。絶対に言っていることとは反対の事を思っているに違いない。信じられない部類の人間だ。
「は、はい」
「後藤がいつも話していた子はこの彼女?いつも話だけだったけど会えて嬉しいな」
嬉しい? 今日子は、自分の耳を疑った。自分の何を見て嬉しいと言っているのだろうか。
知らない所で今日子の話題が出ている。何よりも恐れていたことだ。
何を、一体何を話題にしていたのだろう。気になり始めると、頭を堂々巡りするように、何を聞いていたのか、何を話していたのか、とそのことがずっとめぐる。やっぱり人相が悪く、怒っているように見えてしまう、この腫れぼったい瞼だろうか。それとも、分厚くだらしがない唇だろうか。そう考えると、背中に汗がつたった。
「ああ、またちょくちょく寄らせてもらうよ、一緒に」
後藤は力強い目線で今日子を見る。
今日子の意見は聞かないとばかりに、伺いを立てることなく柴野に返事をした。
「じゃ、ごゆっくり。……厨房にいるから何かあったら呼べ。」
柴野は、勘のいい男だ。今日子の何かを感じ取り、その場から離れる。
「ああ」
そういうと柴野は後藤の肩に手を置き厨房に下がった。
その手が意味するものを、また、親友の後藤も、今日子への合図と感じ取った。
「熱いうちに食べよう。あいつは腕がいいんだ、うまいぞ」
スプーンを今日子に渡す。
受け取る今日子は手が震えながらスプーンを掴んだ。
「ほら、食え」
「……いただきます」
一口食べると、やさしい美味しさが空きっ腹に染み渡る。
とにかく、食べよう。食べてしまって隙をみて帰ってしまえばいい。
食事中は特に何も話すことはなく黙々を食べ続けた。
異性と食事をするのは初めてだ。食べ方が気になる。しかしそんな事はかまっていられない。今日子は、時折後藤の視線を感じたが、気づかない振りをして、食事をした。
一心不乱というと大袈裟だが、そんな言葉が当てはまるように食事をし、全てを平らげてお腹も膨れた。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
そう柴野には言ったが、最初の一口は味も分かったが、後はとにかく食べてしまわなくてはと味わって食べてなどいなかった。
「ああ美味かったな。……林と食事できて良かったよ。無理やりで悪かった」
後藤は力強い視線から、優しさを秘めた目に変わっていた。
何の会話もない食事の何がよかったのだろうか。今日子は、不思議でならない。
「いえ」
「ちょっと……」
一口水を飲むと、後藤は席を立ちトイレの方向に指をさした。
「はい」
後藤がトイレに消えると、今日子はチャンスとばかりに、すぐさま財布から5000円札を出し、テーブルの上に置くと、バッグを掴んで急いで店を出た。幸いに柴野も厨房にいる。フロアにいるのは、ウエイトレスだけだ。
今日子は、乱暴に店のドアを開け、店を出ると、とにかく走った。駅の方向や何もかも考えずとにかく後藤に捕まらないように走った。表通りに出るとタクシーに乗った。
運転手に最寄の駅に行って欲しいと告げる。呼吸も荒く、落ち着くまでに時間が掛かった。逃げるようにして帰ってしまったが、明日どんな顔をして会えばいいだろう。逃げださなければ良かったのか、これで良かったのかもう訳が分からない。とにかく明日どうすればいいか言い訳ばかりが脳裏をよぎる。そんなことばかりを考えていると、目的地に着き、下りた。
柴野が丁度、料理を運んできた。器用に皿を腕と手を使って運ぶ。
「先ほどは挨拶もせず、すみません。初めまして、後藤の友人で柴野と申します。これからも是非寄ってください。お待ちしていますから」
物腰の優しい雰囲気そのままの笑顔を向けられる。
後藤の次に苦手なタイプだ。絶対に言っていることとは反対の事を思っているに違いない。信じられない部類の人間だ。
「は、はい」
「後藤がいつも話していた子はこの彼女?いつも話だけだったけど会えて嬉しいな」
嬉しい? 今日子は、自分の耳を疑った。自分の何を見て嬉しいと言っているのだろうか。
知らない所で今日子の話題が出ている。何よりも恐れていたことだ。
何を、一体何を話題にしていたのだろう。気になり始めると、頭を堂々巡りするように、何を聞いていたのか、何を話していたのか、とそのことがずっとめぐる。やっぱり人相が悪く、怒っているように見えてしまう、この腫れぼったい瞼だろうか。それとも、分厚くだらしがない唇だろうか。そう考えると、背中に汗がつたった。
「ああ、またちょくちょく寄らせてもらうよ、一緒に」
後藤は力強い目線で今日子を見る。
今日子の意見は聞かないとばかりに、伺いを立てることなく柴野に返事をした。
「じゃ、ごゆっくり。……厨房にいるから何かあったら呼べ。」
柴野は、勘のいい男だ。今日子の何かを感じ取り、その場から離れる。
「ああ」
そういうと柴野は後藤の肩に手を置き厨房に下がった。
その手が意味するものを、また、親友の後藤も、今日子への合図と感じ取った。
「熱いうちに食べよう。あいつは腕がいいんだ、うまいぞ」
スプーンを今日子に渡す。
受け取る今日子は手が震えながらスプーンを掴んだ。
「ほら、食え」
「……いただきます」
一口食べると、やさしい美味しさが空きっ腹に染み渡る。
とにかく、食べよう。食べてしまって隙をみて帰ってしまえばいい。
食事中は特に何も話すことはなく黙々を食べ続けた。
異性と食事をするのは初めてだ。食べ方が気になる。しかしそんな事はかまっていられない。今日子は、時折後藤の視線を感じたが、気づかない振りをして、食事をした。
一心不乱というと大袈裟だが、そんな言葉が当てはまるように食事をし、全てを平らげてお腹も膨れた。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
そう柴野には言ったが、最初の一口は味も分かったが、後はとにかく食べてしまわなくてはと味わって食べてなどいなかった。
「ああ美味かったな。……林と食事できて良かったよ。無理やりで悪かった」
後藤は力強い視線から、優しさを秘めた目に変わっていた。
何の会話もない食事の何がよかったのだろうか。今日子は、不思議でならない。
「いえ」
「ちょっと……」
一口水を飲むと、後藤は席を立ちトイレの方向に指をさした。
「はい」
後藤がトイレに消えると、今日子はチャンスとばかりに、すぐさま財布から5000円札を出し、テーブルの上に置くと、バッグを掴んで急いで店を出た。幸いに柴野も厨房にいる。フロアにいるのは、ウエイトレスだけだ。
今日子は、乱暴に店のドアを開け、店を出ると、とにかく走った。駅の方向や何もかも考えずとにかく後藤に捕まらないように走った。表通りに出るとタクシーに乗った。
運転手に最寄の駅に行って欲しいと告げる。呼吸も荒く、落ち着くまでに時間が掛かった。逃げるようにして帰ってしまったが、明日どんな顔をして会えばいいだろう。逃げださなければ良かったのか、これで良かったのかもう訳が分からない。とにかく明日どうすればいいか言い訳ばかりが脳裏をよぎる。そんなことばかりを考えていると、目的地に着き、下りた。



