俺と初めての恋愛をしよう

「おい! 柴野! 何してやがる!!」

その大きな声に、今日子の涙はぴたりと止まった。
そこにいたのは後藤だった。

「モテモテ男が来た」
「余計なことをいうな」

大股でずかずかと歩いてくると、今日子の隣に座っていた柴野を強引にどかせた。

「どうした? 何か言われたのか?」

泣き顔の今日子を見る。
その顔は、ここのところずっとしている心配顔だ。
今日子は、この顔しか後藤にさせていないのかと思うと、また悲しくなった。
自分は幸せをもらい、笑顔で過ごしている。それは後藤が与えてくれたものだ。

「ごめんなさい」
「何を謝っているんだ? 今日子が謝ることは何もないだろう?」

一度ひいた涙が、また頬をつたう。
後藤は今日子を胸に抱きしめる。

「おーい。ここは俺の店ですがー……」

後藤に席を取られた柴野は、後藤の分のグラスワインを持ってきた。
また、向いの席に座ると、両肘をついて、顎を乗せた。

「何もしなかっただろうな」

柴野を信じていない後藤は、疑いの目を向ける。

「何もしてませんよ。ねえ、今日子ちゃん?」

柴野は、おどけた感じでウインクした。

「何かしたな」
「してねえよ」

ウインクなどするから、信じてもらえないのだ。

「柴野さんとは、お話をしていただけです。ワインまでごちそうになって」
「そうか?」

柴野に向ける声色と、今日子に話す声がまるでちがう。
後藤は今日子にはどこまでも優しいのだ。
問いかける後藤に、何処か吹っ切れた笑顔を向ける今日子。
久しぶりの笑顔に、後藤はほっとする。
後藤の心は逸る。早く二人になりたいと。
柴野に出されたワインも飲まずに、後藤はさっさと会計を済ませると、今日子を連れて足早にマンションへと帰って行った。