俺と初めての恋愛をしよう

「そんなに帰りたいか?」
 「……お話があるならお聞きします」

 無理やり連れてきて、帰りたいに決まっている。今日子の内心は、「早く、早く」と急く。
お願いだ、早く話を済ませて帰りたい。話があると最初から言ってくれれば会社で済んだことだったのに。想定外の行動は苦手である。自分でもわからないくらいの貧乏ゆすりをしている。

 「さっき案内してくれたのは俺の大学時代の同級生だ。少し融通が利く、ゆっくりと食事をしよう」

 再会に喜んでいる近藤は、今日子の様子を見てもおかしいと感じない。今日子も近藤と同じような思いでいるのではないかと、自分よがりな思いを押し付けてしまっているとは、思っていないだろう。
 後藤と反対に、同級生の店に連れてこられたのか。知り合いが増えることが嫌でたまらない。と思い、落ち着かない。今日子は、自分を知っている人が増えるのは困るのだ。
 周りの目が気になる。
 容姿の整った男が連れているのは引き立て役の女かとでも言いたそうで、どんどん落ち着かなくなる。

 「……」

 席に座った時から俯いたままだ。自分の目がとらえているのはギュッと握りしめた手だけだ。それでも、視線は挙動不審に店内を見渡すように、動いている。
 トレイに乗せたグラスワインが運ばれ、置かれる。白いテーブルクロスに真っ赤なワインの色が鮮やかだった。
 ワイン飲むこともせず、後藤は話だした。

 「当初の予定は5年だった。転勤の話を聞いたとき5年の長さに正直落ち込んだ。なんでか分かるか?……林、お前と離れたくなかったんだ」

後藤の告白に、俯いていた今日子は、顔を正面に向ける。

 「え…… じょ、冗談はやめてください」

 自分の膝を更にぎゅっと掴んだ。
 汗ばむ手に少しの緊張が走る。