俺と初めての恋愛をしよう

「林さん」
「林さん、お願いします」
「林さん、申請書」

最近の今日子はまるで指名がかかったかのように名前が呼ばれる。
庶務は他にも人員がいるのだが、今日子ばかりに仕事が来る。
慣れない生活と、いつもの仕事。以前は喜んで受けていた残業も今は苦痛だ。
こうして頼りにされるのは嬉しいことだが、残業を喜ばない後藤の機嫌が悪くなる一方なのだ。
何とか残業をせずに済むように、仕事を振り分け、分担してもらう。今日子に仕事を依頼されても、庶務の仕事は担当ならば誰でも出来るからだ。声をかけるのが今日子なだけであって、今日子が処理をしなければならないものではない。
後藤は家でも今日子を傍におき、離さない。毎朝の支度の手伝いは当たり前で、肌を合わせてからと言うものさらにスキンシップが激しくなった。
今日子だって嬉しくないはずがない。これだけ全身全霊で愛されていると感じることはないだろう。
ただ、一人の時間が長すぎた今日子には、他人との接触に緊張を感じてしまうのだ。
後藤でも初めからしたら大分よくなったが、多少なりとも緊張している。それは後藤が仕事場で部長という立場にいることも反映しているだろう。

「有給があるなら少し休みを取ったらどうだ?」
「え?」
「疲れている顔をしている」

後藤は今日子の顔を心配そうにのぞき込んだ。
上司でもある後藤の言葉は、悪魔のささやきの様だった。
有給分だけじゃなく、ずっと休みたい。そこまで思ってしまった。