俺と初めての恋愛をしよう

「人を好きになるのに時間は問題じゃない。これだけ多くの男と女が一緒にいたって、何も感じない方が多いんだ。だから、こうなったのは運命なんだよ。だから素直に受け入れなさい」

後藤は子供に諭すように今日子に言った。

「部長は、私なんかのどこが良くて……」
「すべてだ」

後藤は考えることもなく即答した。

「すべてだ、何もかもすべて」

今日子の頬を何度もなでる。すべてが愛おしく感じる。

「今日子、仕事を辞めないか?」
「え!?」

確かに一緒に暮らしている者同士が、同じ職場にいるのは何かと都合が悪い。だが、今日子には目的がある。それには社員として働いていなければならないのだ。

「仕事仲間で楽しめるようになって来たところだが、仕事を辞めて、これからは今まで我慢してきたことを沢山楽しむんだ。仕事はバイトでも探せばいい。何か趣味を見つけて習い事をしてもいい」
「え?」
「帰国が決まった時から決めていたことだ。絶対お前を俺のものにしてみせると。今決めたことじゃない。既に6年待ったし、今日子は誰にも渡さない俺の物だ。これって男のエゴだよな。分かっているんだ。でも、それでも、そうしてもらいたい。変わっていくお前が誰かにとられそうで怖い」

この先の保証がないのに、アルバイト勤めなど考えられない。後藤は何を考えているのだろうかと、今日子は焦る。

「本当はもっときちんとするつもりだったんだ。……プロポーズ」
「え!?」

 プロポーズという言葉にびっくりした。付き合いだしてからまだ間もない。同棲だけでも常識からは外れてしまっているという意識が強いのに、結婚のことまでは全く頭になかった。
 自分の将来設計に結婚はなかった。子供もない。答えは一つだ。今日子の醜さで結婚は無理。まして子供は自分の遺伝子を受け継げば可愛そうな人生を与えてしまうことになる。
 一生、独身のつもりだった。

「わ、私は……」

 今までの自分だったら迷わず、断っていただろう。しかし、迷いを生じている。これはどういうことなのか思考がついていかない。
 後藤は今日子を引き寄せ抱きしめる。