食器を洗いながら、あゆみさんの言葉を反芻する。

あたしではない、他の誰が見たってあゆみさんは完璧に見える。
そんなあゆみさんにも、後悔している過去がひとつはあるのだという事実が、あたしの心を揺さぶっていた。

今のあゆみさんを彩っている、あの凛とした美しさだとか、その苦しかったに違いない過去をこんなふうに振り返ることができる強さはきっと、それを乗り越えてきたからこそのものなんだ。


あたしにも、できるだろうか。



アイツに、未練はない。
だけど、アイツとのことで、またひとつあたしは「やっぱりあたしはダメな奴」だと思わざるを得なかった。
アイツを嫌いになったわけじゃなかったのに、アイツとの楽しいことも沢山あった筈なのに。

今回、彼とのことも、同じにはしたくない。



玄関のベルがカランと鳴り、お客さんが入ってきた。


「いらっしゃいませ」

いつもの常連さんの、近所に住んでいるという奥さん2人組だ。

「こんにちは。アップルパイ、焼き立てですよ」
「あら、やっぱり?いい匂いがすると思
ったのよ。ちょうどよかったわね」
「じゃあケーキセットね。アップルパイとアイスコーヒーで2つお願いするわ」


かしこまりました、と営業スマイルで答えながら、あたしは決めていた。


今夜は彼に、あたしのほうから電話をしよう。