オレンジ


美人だし、スタイルもいいし、自分のカフェを開くという夢も叶えて、お嫁さんとお母さんという、多くの女の人にとっての幸せも手に入れているあゆみさんは、あたしから見るとどこからどう見ても、素敵な女性。
そんなあゆみさんでも、自信なんてないと言う。
それなら、あたしはどうしたらいいんだろう。

「…あゆみさんでさえそれなのに、あたしなんて…」
「自信ないから、頑張ってるの」
「え?」
「だって、自信ないから無理って諦めてたら、何も始められないでしょ?自信なんかないけど、だから怖いけど、やってみようって、自分を奮い立たせてここまできたのよ。お店始めるときも、結婚するときも、全部そうよ」
「…でもそれは、あゆみさんに勇気っていうか、度胸があるから」
「うーん…それはね…」

あゆみさんはアップルパイを食べ終わり、ナフキンで唇を押さえながら考えて、言った。


「自信ないから無理って思って失敗した経験があるからかもしれないな、今思うと」
「それって、どんな?」
「結婚する前に付き合ってた人のこと。まあ色々あってうまくいかなかったんだけど。後で考えて、あの時あたしがもう少し自信持ててたら違ってたのかもしれないなって思ったの」

そう言いながら笑うあゆみさんの横顔には、ほんの少し寂しさが滲んでいるように見えた。


「だから、あたしと同じ後悔はしてほしくないな、彩乃ちゃんには」

そう言いながら2人分の食器を流しに下げると、「ちょっと歯磨きしてくるね」と言って、あゆみさんはトイレに向かった。