オレンジ


一気にまくし立てるように話し終え、あたしはまたアップルパイを切り分ける。

それは、ずっと分かっていたこと。
あたしの中では知らないうちに、劣等感ばかりが育っていたのだと思う。
どうしてこんなにも、自分に自信が持てないのか不思議だったけれど、成長するにつれて少しずつ、なんとなく分かってきた。

小さい頃から、勉強はそんなにできなかったけれど、スポーツ全般が上手で何かと周囲の注目を浴びていたお兄ちゃんとか、飛び抜けて美人とかではないけれど、発言力があるからいつも一目置かれていた陽菜とか。

そういう人の近くで暮らしていると、何もない自分が本当につまらない人間に思えてくるのだ。
あたしは容姿も、勉強も、スポーツも、どこをとっても十人並みの、ごく平凡な人間だから。

だからあたしの劣等感は、こんなにも膨れ上がってしまったんだ、きっと。


「彩乃ちゃん」
「はい」
「それは、逃げよ?」
「…ですね。分かってるんですけど」
「自覚があるなら、逃げちゃダメよ」


はい、と、あゆみさんはあたしのグラスにアイスティーを注ぎ足しながら続けた。


「自分に自信満々な人のほうが、きっと少ないと思うよ。まぁ世の中確かにそういう人も、中にはいるけど」
「…あゆみさんも?」
「ないない。あるわけないじゃない、そんなの」