「じゃあ、決まりで」
彼が、そう言いながら微笑む。
あたしがちいさく頷くと、彼も同じように、頷いた。
昨日、初めて会った男の人。
まだ、ほとんど何も知らない、そんな相手とのデートの約束を、昨日の今日で受け入れている自分に、自分が1番驚いている。
陽菜に話したら、また呆れながら怒るんだろう。
「どこがいい?どっか行きたいとこある?」
「そんな…そんなの、今すぐパッと出てくるわけないじゃないですか」
「え、そう?そういうもん?」
「…そう、です」
「ふーん、そっか。まぁ、まだ時間あるし。ゆっくり考えといてよ。俺も考えとくし!」
「…はい」
デートを承諾してみせた途端に、あからさまに張り切り出している彼の姿は、なんだか少し滑稽で、でも、少しだけ、かわいいな、と思った。
彼に対して、ほんのちょっとずつだけど、でも着実に、綻び始めているあたしの気持ちが気付かれないように、あたしは
ぎゅっと唇を噛んだ。
まだ、気付かれてほしくない。
