「あ」
「え?」
「笑った!」

そう指摘を受け、あたしは彼から目線を逸らす。

「あれ?今度は照れてる?」
「…べつに、そんなんじゃないです」


言いながら、あたしはまた、戸惑う。
昨日から今この瞬間まで、普段ではありえないくらいの目まぐるしさで、心境がぐるぐると廻って変化をみせている。

変な人だなって、思っていた。
昨日までは。
ムカつく人だな、とも思っていた。
そして、もしかしたら危ない人かもしれないって、そう思っていた。
今日、ほんのちょっと前までは。

今この瞬間にだって、彼を「危ない人」「変な人」にしようと思えば、いくらでも理由はつけられる。

例えばやっぱり、本当の本当に、実はストーカーだったとしても、不思議ではない。

どこかで、どうにかして、あたしの携帯を手に入れたんだとしても。
辻褄合わせの適当な嘘ならきっと、いくらでも作りあげることはできるから。


だけど、もし万が一
さっき彼が話したあたしとの出会いや、これまでの経緯全てが、彼のでっち上げだったとしても

彼氏はいないと言ったあたしに、
一度だけと言ってデートの誘いを受けた
あたしに、彼が見せたさっきの笑顔。

あそこには、嘘はなかった。

そして、それに対して思いがけずこぼれ
たあたしの笑顔にも、嘘は、1滴も含まれていなかった。