あたしはなんだか彼の顔をまじまじと見ることができなくて、自分の太ももの上で、両手で握りしめているロイヤルミルクティーの缶を見ながら訊き返した。


だけど、なかなか彼が次の言葉を発してくれないので、ちらっと、目線を上げてみた。

あたしを見つめる、二重の、目。
ベンチに座るあたしの真正面にしゃがんでいるから、必然と少し上目遣いになっている。
それは今までの「年上の男の人」の表情
とは違っていて、どちらかと言うと、「男のコ」。

また少し、彼に対する気持ちが溶け出していく。


「彼氏いる?」
「…いません」
「マジ!?やった!」


あたしの、「ん」が言い終わるより早く、彼の顔があたしの目の前で、みるみるうちに笑顔に変わった。
今度は唇だけじゃない、本当の「笑顔」だった。
その笑顔で、彼は続けた。


「じゃあ、いいよね?」
「何がですか?」
「デート、してくれない?」
「………じゃあ」
「じゃあ?」
「…一度だけ、なら…」

あたしが言うと、「いいよ、全然!!」と言って彼は立ち上がった。
その笑顔に、年齢にはそぐわない無邪気な喜びように、あたしの口元も、思わず
緩んでしまう。