ふぅー、と、彼が煙を吐き出す音。
今、あたしたち2人の間にある音は、それだけだった。
青年の歌声も、いつの間にか止まっていたことに、あたしは今気がついた。
「ストーカーって、いうのかな。そういうの」
独り言を言うみたいに、ぽつりと言った。
すると彼は、ふっとまた、唇だけでちいさく笑って、言った。
「わかんないけど、あの時俺が、ストーカーの気持ちわかる気がする、とか思ったのは、確か」
「あの時って…」
「一回見ただけで一方的に気になって、また会いたいとか思っちゃって、何回も店に行ったりしてる時点で、俺なんかヤバくね?とは思ってたけど。携帯拾ったとき、一瞬思って、俺。中見ちゃえばいろいろ…名前とか、いろんなことわかるな、とか。で、あー、きっとストーカーとかってたぶん最初はこんなもんで、だんだんエスカレートしちゃう感じなのかな、とか思っちゃったよね」
「……………」
「キモいっしょ?」
二本目のタバコを揉み消しながら、彼は
そう言って自虐的に笑った。
「でも」
タバコを吸い終わった彼は、灰皿の前からあたしの前に戻ってきて、また、さっきみたいに、目の前でしゃがんだ。
「思いとどまって、メールとか着信とか、そういうのはいっさい見てない。マジで。見たのは、番号だけ。それだけ、ど
うしても知りたくて。ごめん。で、だか
ら訊くけど」
「…なんですか?」
