わからないから不安になる。
信じてみたい。もっと、知りたい。
そう思う気持ちと、
わからないからこその、警戒。
ほとんど薄れてはいるものの、完全には消えていない、彼に対する恐怖心。
まだ殆ど何も知らない彼とたったふたり、人通りの少ないシャッター通りを歩いていても、あたしはもうさほど、恐怖を感じていなかった。
彼という、人物に対して。
彼があたしに危害を加えるだとか、何かあたしにとって不利益なことをしてくるような人だとは、なぜだかもう、思えなくなっていた。
彼のストーカー疑惑が晴れたわけではないのに、なんの根拠もないのに、あたしは漠然と、でも確かに「悪い人ではない」と、そう思い始めていた。
それは、陽菜と初めて会ったときに、言葉を交わす前から「この子と話してみたい」「仲良くなれる気がする」と感じた感覚に近かった。
彼に対してまだ、ほんのわずかに感じている恐怖心の正体は、彼自身に対するものというより、未知に対しての恐怖だ。
彼の思いや考え、その行動に至った理由。あたしがいくら想像してもわからない、その答えが欲しい。
彼はしばらく黙って、横目であたしを見たかと思うと、そのまま身体を90度ひねり、あたしに向き直った。
思わずあたしもつられて、彼のほうに身体ごと向き直って、言った。
「え?…っと、なんですか…?」
