「ビックリしたよね?」
「…はい」
SMILYから駅へ向かう一本道を、彼と並んで歩いている。
彼が、「よね?」と言いながら、少しあたしの顔を覗き込むみたいにかがんだことには気がついていたけれど、あたしはあえてそれには気付かないふりをして、俯いたまま答えた。
彼に興味を持っているのは、確かに事実には違いないのだけど
だからと言って、完全に警戒を解いたわけでもないのだ。
駅の裏通り。
昼間は賑わう商店の数々も、20時を過ぎればただのシャッター通り。
人通りも少ない。
いつも、1人でここを通らなくてはならないときは少なからず不安に駆られたりもする。
「…黙ってんだね」
「え?」
不意を突かれたその言葉に、あたしはつい彼の横顔を見上げた。
彼は、まっすぐに前を向いたまま、あたしに目線は映さない。
「だってさ」
ちょうど通りすがった薬局の前であぐらをかきながら、アコースティックギター
をかき鳴らし、声を張り上げて歌っている青年の声。
シャッター街に響いているその声は、いつもバイト帰りに耳にしているのと同じ
もののはずなのに、今日は何かが違っている。
少し、青年の声がくぐもったようにあた
しの鼓膜に響く。
彼が不意に立ち止まったので、あたしもつられて立ち止まる。
真横にいる彼の顔を見上げたら、ようやく初めてまともに視線がぶつかった。
