あたしの戸惑いなど無視して、彼はぐいっとあたしの右手を引いた。
「行くよ?」
あたしの右の手首にかけられた力はとても強引なのに、その語尾は柔らかい。
そして彼の口元に浮かべられた笑みがまた、あたしの心を緩ませる。
行かないほうがきっと安全だ。
と思うアタマと、
彼について行ってみたい。
と感じるココロが、せめぎ合う。
そして、時間にしたらたぶん1分にも満たない程度の逡巡を経て、
あたしのココロはアタマに打ち勝った。
だって、知りたい。
どうして今ここに、彼がいるのか。
あたしの携帯を拾って、今に至るまでの彼の行動の全てに隠された理由。
それが、「ストーカーだから」だったとしたら、あたしの負け。
ゲームオーバーだ。
だけど、心の片隅に確かに芽生えたこの気持ちは、彼に対する疑いや恐怖ではなく、興味。
純粋に彼という人物のことを、もう少し
知ってみたいという興味が、恐怖に勝ってしまっている今の自分の心境が、自分でも不思議だった。
