オレンジ

「大丈夫だって。さすがにもう誰も来ないし。もうあとは、レジ締めと戸締りだけだから俺だけで十分」
「…じゃあ、」

お願いしちゃおうかな、と言おうとしたその時、ドアが開いた。

「お客様申し訳ありません。当店間もなく閉店の時間なので…」

高橋くんがそう言っているのにまるで耳
に入っていないかのように、その人は、

彼は、ズカズカと店内に入ってくる。

結城拓真だった。

あたしの目の前まで歩いて来たかと思うと、驚いて目を見開くことしかできずにいるあたしの右手をいきなり掴んだ。


「迎えに来たんだ」

ニコ、っとあたしに笑いかけながら彼は言う。

あたしは身じろぎもできずにいた。

だってなんで、

なんで、ここが…?


「彩乃ちゃん…?知り合い?」

高橋くんが訝しげな声で聞く。

「あ、っと…知り合い…っていうか」


知り合い、ではあるんだけど、
でもまだあまりよくは知らなくて、
っていうか本当はもしかしたらストーカーだったりしちゃうかもしれなくて、

…えー、っと…



あたしが今のこの状況を理解することと、高橋くんへの適切な説明の仕方について頭を悩ませていると
あたしの脳内の混乱なんてまるでお構いなしに、彼は高橋くんに向かって言った。

「バイト、もう終わりでいいんですよね
?彼女、連れて帰っていいですか?」
「え…いや、でも」
「何か?」
「いや、その…彼女、彩乃ちゃん、とは、どういう…」
「だからさ、知り合いだって」
「…でも」