洗い物を終えて水道の水を止めると、ちょうどスクーターのエンジン音が外から聞こえた。
高橋くんだな、と思ったのとほぼ同時に、木製のドアがギィーと鳴った。
「あぁ彩乃ちゃん、もう来てたんだ。ごめん、遅くなった」
「ううん、あたしもさっき来たばっかだよ。それにほら、お客さんもいないから大丈夫」
狭い店内をちらっと見渡してお客さんがいないことを確認すると、
「そっか、ならよかった。すぐ着替えてくるから」と言って彼は更衣室へ消えた。
高橋くんが来てからもしばらくはお客さんが来ない状態が続いたけれど、17時を過ぎたあたりからちらほらとお客さんが入り始めた。
SMILYは20時閉店だ。
あゆみさんが必ずお店にいられるランチタイムには、サンドイッチやパスタなんかの軽食も出すけれど、それ以外はお茶とケーキのみのメニューで営業している。
アットホームなお店だし、来るのは大体地元の常連さんばかりなのでそれに文句を言うお客さんもいない。
コーヒー一杯だけをオーダーし、2時間近く文庫本を熱心に読んでいた30代くらいのOL風の女の人が今日の最後のお客さんだった。
「あとは俺がやるから。彩乃ちゃん、先にあがってていいよ」
「え、だけど…」
壁にかけられたアンティークの振り子時計は、19時50分を差している。
