拓真の唇が、震えている。
いつもあたしに、嬉しい言葉をくれた。
あたしに向けて「好きだよ」って。
数えきれないくらい、何度も何度もキスを交わした。
一緒に迎えた朝や、ドライブ中の信号待ちや、お台場の観覧車、ディズニーシーや、ベッドの中や、喧嘩のあと。
あたしの頬に、唇に、おでこに、首筋に。
いつも柔らかい温もりで、あたしの体中に沢山の幸せを降らせてくれたはずのその唇が、あたしが絶対に聞きたくない言葉を今にも紡ぎ出そうとしている。

こんなの、嫌だ。

今ならまだ間に合うよ、拓真。
あたし、どんな下手くそな言いわけでも、笑って流してあげるよ。
泣き笑いで、不細工になっちゃうけど。
でも、あたし、できるよ、大丈夫。
そしたらふたりで笑ってまた、仲直りのキスして、抱き合えるでしょ。
ねぇ、だから、お願い。

その先は言わないで―


心の奥で、もう一人のあたしが叫んでいた。
けれど、その願いはもちろん、拓真には聞こえない。


「彩乃。…ごめん…」