「ねぇってば!」

どん!っと、拓真の胸にしがみつくようにして、叩いた。
いつもなら、あたしを心底安心させてくれて、温かく包んでくれるはずのその腕が、あたしの背中にまわされるはずの、大好きなその腕が
あたしの手首を、掴んだ。

項垂れていた首をようやく上げた拓真の瞳には、光がなかった。
視線が合っているのに、どこか焦点が合っていないような、空虚な目。
こんなふうに、あたしが拓真の胸から見上げて見つめ合うときはいつも、どんなときだって、拓真の瞳は優しさに溢れているはずなのに。
いかにも愛おしそうに、あたしをまっすぐ見つめてくれるその目が、大好きなのに。
その光をどこにも見つけられないことが悲しくてたまらなくて、ますます涙が溢れた。
こんなときに涙を拭いてくれなきゃならないはずのその指は、手首を掴んだままだ。


「…彩乃」

今にも消え入ってしまいそうな、弱々しい声。
こんなんじゃ、ない。
拓真に呼ばれると、それだけで、自分が世界一素敵な名前を持っているような気持ちになれた。
それなのに今は、悲しい。
だって、この先に続く言葉が決して幸せをくれないことがわかりきっているから。