だけどそれでも、あゆみさんとの関係を断ち切ることができなかったのはつまり、拓真の中で、あたしがあゆみさんに勝てないのだということだ。

拓真は、答えなかった。
それは、肯定することと同じだ。

元カノを引きずっていることを知りながら、いつか自分が元カノを追い抜く日がくるのを願って今のままの関係でいることもできるのかもしれない。
けれど、あゆみさんはあたしにとっても憧れの女性だし、誰がどう見たって素敵な人だ。

勝ち目なんて、ない。

あゆみさんが既婚者だろうと、母親だろうと、関係ない。
あたしにとっては、拓真とあゆみさんの関係が続いているということ、それ自体よりも拓真の気持ちが問題なのだ。

「ねぇ、拓真」

あたしの問いかけに、拓真は俯いた。

「なんか、言ってよ…」

語尾が、掠れてうまく声にならなかった。
こんなに、人前で泣いたのはたぶん、小学生のとき以来だ。


「なんか…」

なんか言ってよ、と言いながら、あたしは、拓真のどんな言葉を待っているんだろう。
何を、求めているんだろう。
この期に及んであたしはまだ、どこかで期待している。
こんなにも拓真を責めて、追い詰めて、自分自身、この先に待つ結末なんて頭では十分理解しているのに、それでもまだ。

「そんなわけねぇだろ、何言ってんだよ」って。
「ミナミのことは、本当になんでもないから」って。
そう言って、拓真が微笑んで、抱き締めてくれることを、心のどこかで望んでいる。

…あたしは、バカだ。