幼い頃から染み付いた劣等感は、恋愛でもやっぱり邪魔をする。

まっすぐにあたしを好きでいてくれる、拓真のことを疑っているようで、できることならあたしだって、こんな風に考えたくはないのだけれど。


でも、拓真はあたしに鍵をくれた。

あたしのこんな性分を、あえて話したことはないけれど、拓真はおそらく気付いているだろう。
…と言うより、あたしの何気ない言葉の端々から感じとっていると思う。

あの時あたしがたまたま見つけたから、その場のノリでくれただけなのかもしれないけれど。
でも、それは、拓真が自分だけのスペースであるはずの部屋の中に、あたしが断りなく入っても構わないと思ってくれているということ。

部屋に入るという行為だけではなくて、拓真自身のもっと奥深くまで入り込むことを許された証みたいに思えるこの鍵を
、今日、使ってみよう。

何の変哲もない銀色の鍵を、カバンの中のポケットに仕舞い込む。

今日はやけに風が冷たい。
きっと寒い思いをしながら、疲れた身体を引きずって帰ってくる拓真のために、何か温かいものでも作って待っていることにしよう。