俺はあのとき、まだ大学生だった。
卒論や就活のほか、バイトだってしていた俺は、少しずつそんなミナミを重荷に感じ始めたのだった。
幸い、ミナミの親父が遺してくれた保険金があったから、ミナミが働けなくなっても生活に困ることはなかったが、俺は少しずつ、ミナミがいる家に帰るのを避けるようになった。
なんだかんだと言い訳をしては翔太の家に居座るようになり、たまに帰ってもミナミと交わす言葉は殆ど連絡事項ばかりとなり、会話らしい会話はなくなった。
そうして、ある日帰ると、ミナミは荷物ごと全部いなくなっていた。
「今まで、ありがとう。
あたしがこんなだから、迷惑ばかりかけてしまってごめんなさい。さよなら」
という、たった3行の手紙だけを残して。
「…ミナミは、俺と別れてから、すぐに結婚した。もう、子供もいる」
「…連絡、とってたの?それでも」
「…いや。久しぶりに、きたんだ。ちょうど、今年の春くらいだったかな」
「どうして、急に?」
「……………」
