「…へぇ。どこで?」

思いがけない名前に一瞬どきりとしたことは隠し、あたしは何食わぬ顔で聞き返す。

「んっと、池袋の駅前」
「なんか話した?」
「んー、ちょっとだけ。なんか、すれ違いざまに向こうが気付いて声かけてきたんだよね。あたし、優弥のことは私服で見たこと殆どなかったから、なんか雰囲気違くて全然気付かなかったよ」
「…そっか。だよね。あたしもわかんないかも、今会っても」

それは嘘だけど。
と、心の中で付け足した。
今だって鮮明に思い描くことができる優弥の姿。
たとえ、年月が経って多少の変化があったとしても、あたしはたぶん、優弥には気が付くだろうと思う。
それはきっと、これからも変わらない。


「それはないでしょ」
「…かなぁ」

優弥、という名前を耳にしても、以前よりも波立たなくなった、あたしの心。
これは、拓真がくれたものなのだろう。

「優弥ね、」

一瞬、陽菜が息を飲む。
いつもはっきりとした物言いをする陽菜にしては、珍しい素振りだった。


「なに?」