「近くにいるっぽいんだ。で、なんか、昨日のこと謝りたいからとかなんとか…」
話しながら陽菜は、傍らに置いたバッグから取り出した大きな鏡を覗き込む。
斜めに流した前髪を綺麗に整えて、ファンデを塗り直す陽菜を見て、思う。
やっぱり陽菜は、あの頃と何も変わっていない。
「急すぎるっつーの、ね。あたし今彩乃といるって言ったんだけど」
言い訳がましくそんなことを言う陽菜を、可愛いな、と思う。
罰が悪いとき、気まずいとき、照れくさいとき。
陽菜はいつも、メイクを直すふりをして、大きな鏡で顔を隠す。
「よかったじゃん。仲直りできるね」
「んー…いいのかなぁ…なんかこんな繰り返しで、ほんと堂々巡りなんだけど」
「でも、今、嬉しいでしょ?じゃあやっぱり、好きじゃん?」
「んー…でもまた、ケンカするよ」
「そしたらまた仲直りすんだよ」
「えー…」
あたしは、知っている。
陽菜がどんなに、崇司くんの愚痴を言っていても、何回ケンカをしても、泣かされても。
初めて一緒に過ごしたクリスマスにもらったというティファニーのネックレスを
外したことは一度もないってこと。
「また、今度ね。ゆっくり話そ」
「…ありがと。彩乃もさ、一緒だからね?」
「え?」
ピンクのグロスを塗り終わった陽菜は鏡をバッグにしまうと、あたしを見た。
「あたしも、またきっとケンカするし、同じようなことで悩むけどさ。それはわかってるけど、そんな先のことより今は今の気持ちだけ考えてたらいいよね。今、声聴いたら、やっぱ会いたくなった、あたし」
ピンクの唇をぷるぷるさせながら、陽菜はニコッと笑った。
「…うん。そうだね。がんばります」
今の、気持ち。
