「…そんなんじゃないってば」

あたしはアイスコーヒーを啜りながら答えた。
パンケーキに乗っていた生クリームの甘さが舌にまとわりついている。
ガムシロ入れなきゃよかったな。

「そんなこと、あると思うよ。別に彩乃が、今も優弥を好きとかそういう意味で言ってるんじゃないよ」
「じゃあ、どういう意味で?」
「…なんて言うのかな」

陽菜は紙ナプキンで唇を押さえながら、視線を宙に漂わせた。

「ああいう別れ方、したからさ。好きだって言われても簡単に信じられなかったりとかするのかなって思っただけ」
「………………」

それも、ある。
とは思う。
あたしは漠然と、恋をすることを恐れていた。
あれ以来ずっと。

「…なんか、さ」
「うん」
「恋愛、怖いんだよ。あたし」
「裏切られるかも、って?」
「…ううん。それもまぁ、あるけど」


優弥に恋をした。
あたしは幼かった。
恋なんて知らないまま、恋をした。
どんどん、どんどん、どんどん
自分の意図しないところで、沢山の感情が沸き起こる。
彼がいなければ、彼を好きにならなければきっと、知らないままだったはずの感情の波に、あたしは翻弄された。

どうしたらいいのか、わからなかった。
だってあたしはそれまでずっと、自分でコントロールができる感情しか、持っていなかったから。

初めて知る、自分で操縦ができない感情を抱えたまま、あたしは苦しくなった。

だって、それらを受け止めてくれるはずの優弥もまた、幼かったから。