彼女と、俺の視線がぶつかる。
間1人分、ぽっかり空いたソファの上で。
「…そうですね」
「俺に会いたいと思ってくれたんだよね?」
「…そうですね」
「なんで?」
やっぱり、違うな。
ふとしたときに感じる。
「いつもの俺ならこんなことしない」
「いつもの俺ならこう言うのに」
それは今まで誰に対しても感じたことのなかった違和感。
たぶん、いつもの俺なら訊いてる筈だ。
「俺のこと好き?」
訊けるだろ、それくらい。
だけど、怖い。
こんなに状況が揃っていて、彼女も多少なりとも俺に好意はある筈だとわかっていても。
それはどうしてだろう。
うまくできない。
もう、随分慣れた筈なのに、それでもやっぱり彼女を目の前にすると俺は、平静ではいられなくなる。
今まで恋をしてきた相手の前でもそうだったのかもしれないけれど、ただ久しぶりすぎて、恋愛している最中の自分の状態を、その感覚を、忘れてしまっているだけなのか。
「…なんでだろう。わかんないけど、ただ」
そこまで言うと、彼女は言葉を止めて、俺から目を逸らした。
俺もまた、彼女から視線を外し、彼女が見た方向へと向き直る。
テレビの中から、あの日聴いたサザンの曲が流れてきたのだ。
「究極の夏うたランキング」と称された番組内のコーナーで、第1位として紹介されているのは、江ノ島からの帰りの車内で一緒に聴いたあの曲だった。
俺たちは黙ってその映像に見入っていた。
あの日の夕方の、車の中での様子が鮮明に蘇ってきた。
