「うん、うまいね。生地もサクサクだし。久しぶりだわケーキなんて」
「でしょ?すっごく評判なんです。うちの看板メニューなんで」
「うん、知ってる」
「え?」
「だから、ほら。俺、行ってたからね。あのお店」
「あ…そうでしたね…」
そう言ったきり、彼女はまたアップルパイを黙々と食べ始める。
テレビでは、歌番組が流れている。
ショコラは相変わらず、彼女の動向を追うかのようにケージの中からこちらをじっと見つめている。
「嫌われてるのかなぁ、あたし」
「え?」
ハッとしながら彼女に目をやると、その視線はショコラの方に向けられている。
なんだ、ショコラのことか。
それは勿論口には出さずに、俺は言った。
「そんなことないよ。ただ知らないからビビってるだけでさ」
「…だといいけど」
「大丈夫だって。犬は、犬好きな人のことはわかるから」
「ほんとですか?」
「うん。たぶんね。もともとコイツは、人懐っこいほうだし、最初だけだよ」
嬉しそうにショコラを見つめるその目は、いつも俺に向けられているそれよりもずいぶん愛おしげで、俺はショコラを羨ましく思う。
「嫌われてんのかな、俺」
「え?」
今度は俺が言ってみる。
やっぱり、さっきまで愛おしさに満ちていた筈のその目には、ショコラから俺へと映す対象が変わる途中でほんの僅かにではあるが、不安が滲む。
「何言ってるんですか、そんなわけないじゃないですか。飼い主なのに」
「じゃなくて、彩乃ちゃんに」
「え?」
「だってショコラばっかり見てんだもん。別にいいけど、今日は俺に会いに来てくれたんじゃないの?」
